駒大苫小牧高校と横浜高校
先日、スポーツ情報番組で駒大苫小牧高校野球部が取り上げられていたのをみたが、なんだかどうして駒大苫小牧が低迷しているのかよく分かるような内容だった。
普通、野球部というとイメージされるような活気というものはあまり感じなかった。
逆に、生徒は山ほどある不満をぐっと呑み込んでいるように見えた。
少なくとも、駒大苫小牧の野球部がうまくいっていないということは画面からはっきりと伝わってきた。
佐々木監督には、駒大苫小牧が強かったころのイメージがあると思う。
駒大苫小牧の佐々木監督は駒大苫小牧が初優勝したときの主将で、最後のフライも佐々木監督がとった。
駒大苫小牧を卒業後は駒澤大学に進学し、卒業後はもう一度香田監督のもとで野球がやりたいと駒大苫小牧に赴任した。
香田監督のもとで20年、30年と野球をやるつもりでいたのに、赴任したとたんに香田監督は解任され、自分が監督をやることになってしまった(さらにいえば、佐々木監督が赴任したことが香田監督の解任のきっかけとなった)。
佐々木監督は、香田監督が残した伝統を守ろうと必死なのだと思う。
香田監督の指導は基本的にスパルタである。
スパルタ指導が成果をあげるには条件があって、それは指導者に強烈なカリスマがあるということだ。
香田監督にはそれがあった。
香田監督が駒大苫小牧の監督をしていたころ、選手は香田監督についていけば甲子園に行って全国制覇できると本当に信じていた。
そして、本当に全国制覇してしまったのだ。
信じるというのは恐ろしいもので、本当に信じることができた場合には信じたことが実現してしまうことがある。
しかし、佐々木監督には、香田監督にあったカリスマがない。
生徒は口では全国制覇云々と言うだろうが、佐々木監督についていけば全国制覇できると心の底から信じている選手はただの一人もいないだろう。
そういう中でスパルタをやってもうまくいかないのは当たり前の話だ。
生徒が不満をため込むだけで終わるはずだ。
佐々木監督とはまったく逆のタイプの野球指導者として、横浜高校野球部の平田徹監督がいる。
平田監督は2001年に横浜高校が四強入りしたときの主将なのだが、実は本人は形式的に一試合試合に出ただけである。
香田監督や佐々木監督のように、アマチュア野球選手として大成功した人ではないのだ。
そのためもあってか、平田監督は成功体験からくる思い込みがまったくない。
だから、どんどん新しい手法を取り入れることができるし、時代の変化にも対応できる。
実際、平田氏が監督になってから横浜高校野球部のキャラクターは完全に今風になっていて、以前とはまったく違ったものとなっている。
野球指導者にとって、選手としての実績は深刻なハンデになりうる。
香田監督や佐々木監督みたいに選手として大成功した野球指導者は、往々にして選手を信じることができない。
どうしても選手の欠点から気になってしまうから、結果指導方法もスパルタになりがちだ。
スパルタ指導というのは選手に対する不信感が根底にあるので、チームが崩壊しやすくなる。
あれほど強かった駒大苫小牧も、「ハンカチ王子」との対戦から3年もせずにチームが崩壊している。
香田監督の強烈なカリスマをもってしてもそうなのだから、いかにスパルタ指導が難しいかがわかろうというものだ。
一方、平田監督のように現役時代無名だった野球指導者はまず、選手の欠点ではなく選手の長所から目に入るので本当に選手を信じることができる。
そうすると選手の方も気分がいいし、何も言われなくても真面目に練習しないと申し訳ない気がしてくるだろうからチームの運営もうまくいきやすいだろう。
平田監督の勝利を二の次にした采配には当然ながら批判もある。
しかし、2017年度入団の高卒ルーキーでもっとも活躍したのが横浜高校出身の藤平尚真だったことは注目に値する。
去年の甲子園では、笑顔がチャームポイントの増田珠が話題になった。
生徒との距離を近くにとるという指導には難しさもあるだろうが、平田監督がチーム運営において大きな成果をあげていることは間違いない。
野球指導者として、佐々木監督は全国制覇というとてつもない重荷を背負う。
佐々木監督は2004年のあの夏を乗り越えることができるだろうか?
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