グローバル引きこもり的ブログ

「Common Lispと関数型プログラミングの基礎」というプログラミングの本を書いてます。他に「引きこもりが教える! 自由に生きるための英語学習法」という英語学習の本も書いています。メール → acc4297gアットマークgmail.com

バグダーディーの安易なカリフプロジェクト

イスラム国」を創設して有名になったバグダーディーが亡くなった。アメリカ軍による特殊作戦の結果、トンネルに追い詰められて自爆したらしい。「イスラム国」ができたのは五年ほど前のことだから本当にあっという間、という感じがするが、当たり前のことが当たり前に起きたとも言える。バグダーディーのカリフプロジェクトは考えるほどに安易なものだった。まず、カリフを持続的に運営するためのリソースをどのように調達するのか?食料とか武器とか医薬品、それらを生産するための原材料など、バグダーディーのカリフはこれらを生産するための手段をまったく持っていない。持っていないからカリフを運営するためのリソースは占拠した場所にあるものを略奪するしかない。略奪にかかるコストがゼロであるのと、イスラム国関係者による人命無視のオペレーションにより(短期的には効率的である)一時「イスラム国」は広大な土地を占拠したが、リソースが尽きたらそれで終わりである。バグダーディーのカリフは、「反イスラム的」なシステムのリソースなくしては絶対に存続できないのだ。それだけでも悪いのに、バグダーディーのカリフの統治方法もまた最悪であるとしか言いようがないものだった。バグダーディーのカリフが夢の理想郷であるというよりはポル・ポトが支配するカンボジアのようなものだということが知られると、どんどん死んでいく「イスラム戦士」も補充できないし、バグダーディーのカリフプロジェクトを盛り上げるために世界中から集まってくるはずの専門家も集まらない。住人の協力も得られない。暴力で弾圧するにも、必要な暴力のリソースはどんどんなくなっていく。住民が難民として逃亡すると、各種リソースの生産もインフラの維持も不可能になる。人的リソースも物質的リソースもないのに、どうやって敵対勢力と戦うのか?バグダーディーのカリフプロジェクトには、イラク軍の将軍などフセイン政権での行政経験がある者が多く参画しており、これらの人々の知識(武器庫がどこにあるかとか)が「イスラム国」を一瞬だけ可能にした。カルト教団が国を作っては自滅するというパターンは一神教の歴史のなかでいくらでも見られることで「イスラム国」もこの一例にすぎないが、行政経験がある関係者がバグダーディーの政策をどのようにみていたのかは気になるところだ。現実を考えると、今の世界でカリフを作るという考え自体が安易である。この簡単な事実すら分からなくなるのが宗教的現実というものなのかもしれない。