グローバル引きこもり的ブログ

「Common Lispと関数型プログラミングの基礎」というプログラミングの本を書いてます。他に「引きこもりが教える! 自由に生きるための英語学習法」という英語学習の本も書いています。メール → acc4297gアットマークgmail.com

ときど著「東大卒プロゲーマー」

プロゲーマーとして活動しているときど氏が、いままでの半生を回想した本である。

この本はヒトデ君(僕はだいぶ年長だからヒトデ君と言っちゃうが)のブログで知ったんだけど、今Kindle Unlimitedの対象書籍になっているというので早速読んでみた。前から読んでみようかな、と思ってたものだったのだが、実際に読んでみて非常にいい本だったのでここでも紹介しようと思う。

プロゲーマーとは何か

プロゲーマーとは文字通りゲーム(具体的には格ゲー)をやって生計を立てている人のことである。プロゴルファーがゴルフして生計を立てるのと同じように、プロゲーマーはゲームをして生計を立てる。具体的にはスポンサーと契約を結んで給料をもらい、いろいろな大会に出場して賞金を獲得する。プロゴルファーがやっている事と同じ事なのだと本書は説明する。

その生活はまさにゲーム漬けで人間ここまでゲームが出来るのか、と驚くほどである。ときど氏は一日8時間ゲームをするらしい。そしてゲーム以外はほとんど何もしない。読書もせず、音楽も聞かず、映画を見る事もなくひたすらゲームをするのである。それで飽きる事は全くないらしい。

プロゲーマーのマネージメントをしている事務所に練習場があり、そこでプレイヤーが集まって日々切磋琢磨しているようだ。さすがに一人では8時間ゲームをするのは無理というのもあるだろうが、そのようにプレイヤー同士での議論や情報交換がトップレベルでのプレーには欠かせないのだという。

麻布出身

親は大学の教授で、麻布中学・高校を卒業後、東京大学に進学して修士課程を退学している。子供の頃から格ゲーが大好きで、麻布中学三年時にアメリカの大会に出場、いきなり優勝している。格ゲーの大会に出場するために一人でアメリカに行ってしまうというのがいかにも麻布的である。当時の麻布にはレベルの高いプレイヤーが多数在学していたようで、格ゲー関係も含めいろいろ麻布の思い出が書いてある。

勉強の方はというとさすがにゲームのし過ぎで一浪を余儀なくされたものの、ゲームで身に着けた要領で効率的に受験勉強を進めて無事東大に合格することが出来たのだという。勉強をやる事とゲームをやる事の関連性については非常に詳しく書いてある。

研究

大学でもトッププレイヤーとして大活躍をしたときど氏だけど、大学4年時にあっさりとゲームをやめてしまう。指導に当たったポスドクのS氏に感化されて研究にすっかりはまってしまったのだという。よくわからないけど、どうやらある種のゲルに関する基礎研究をしていたようである。研究に没頭したときど氏は、ここでもゲームで身に着けた要領を発揮して効率的に実験を進め、その成果は高く評価されたらしい。

ここまでのときど氏の経歴はいかにも麻布出身者の王道を突っ走っている感じだが、研究に熱中するあまり院試で十分に得点できなかったときど氏は無念にも研究室を去ることになる。東大では機械的に院試での得点が高い順に希望の研究室を選んでいくという仕組みになっていて、人気のある研究室に進学するには高い得点で院試にパスする必要がある。あいにく、ときど氏の研究室は人気のある研究室だったので、研究室に残るにはもっと準備をしなければならなかったのだ。

泣く泣く他の研究室で新しいテーマに取り組もうとしたときど氏だが、再び情熱をもって研究に取り組むことはついにできず、休学した後に結局退学することになった。このような顛末になるあたり、ときど氏の天職はやはりゲームだったんだろうな、と感じる。もしときど氏の天職が研究者だとしたら、研究生かなんかになって研究を続けながらもう一度院試を受けるなり、海外に留学をするという方向に運命が転がっていったに違いない。

新しい動き

大学院をやめ、ショックで死体のようになっていたときど氏だが、この時期の格ゲーの世界では新しい動きが出来つつあった。日本でもプロゲーマーが誕生し、ネットで動画の配信が可能になったのである。それらの新しい動きに巻き込まれる形でときど氏の人生も動き出す。ウメハラ氏に相談に行くシーンは読んでいてついうっかりホロリとしてしまった。

この章からは当時の格ゲーの世界の高揚感が伝わってきてなかなかよい。当時といってもまだ5,6年前の話なのだが、歴史が出来る場面に当事者として参加するというのはこういう事なんだな、という事が分かる。

いい人しか勝てない世界

格ゲーというのは一人では絶対強くなれない、と本書は断言する。同じ志をもった仲間が必要なのだ。そして、もし仲間の協力が重要ならば、最後にはいい人が勝つということになる。いい人ならば仲間の協力が得られるけれども、周りに疎まれる人は仲間の協力は得られないからだ。

だから、強くなりたいならば情報を自分で抱え込むことなく、誰の意見にも耳を傾け、少しくらい腹が立つことがあってもこらえる必要があるのである。

確かにいい人で強い、というのは最強だ。もちろんいい人ではなくて強い人というのもいるだろうけれども、その強さは安定したものではない気がする。それでは必要な努力を継続することができず、なんかのきっかけですぐに表舞台から消えそうだ。

まとめ

正直、書評と言っても何をどう書けばいいのかここまで書いても全然分からないままなのだが、とりあえずこの本はとても面白い。当時の格ゲーの世界の雰囲気も興味深いし、ゲーマーから見ると世の中というのはこういう風にみえる、というのが面白い。

ゲームをする人はもちろん、ゲームをしない人もなにかしら得るところのある本である。