グローバル引きこもり的ブログ

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2016年アメリカ合衆国大統領選挙の歴史的意義

'We will win, and win big(私たちは勝つ。圧勝する)'とトランプが言った通り、結果は決定的だった。

ヒラリーはラティーノ中南米系のアメリカ人)が25%を占めるフロリダ(選挙人29人)で負け、アフリカ系アメリカ人が21%を占めるノースカロライナ(15人)でも負け、労働組合が強い工業地帯のオハイオ(18人)、ミシガン(16人)、ウィスコンシン(10人)でも負けた。

ニューヨーク州の隣にあるペンシルバニア(20人)でも負けるのだから、これはもうどうしようもない。

 

今回の大統領選挙はベルリンの壁の崩壊に匹敵する重要性を持つ。

ベルリンの壁の崩壊が共産主義の終わりを示したように、今回の大統領選はここ数十年続いてきた経済的自由主義・社会的自由主義に基づいた社会の終わりを示すものである。

このような自由主義的なイデオロギーではもはや、今日の社会が直面する問題を解決する事はできない。なぜなら、それらの社会問題は自由主義がもたらす必然的な結果だからである。

今回の大統領選挙の結果はアメリカ国民がこの事実を理解している結果なのであり、一部のリベラル派がいうような無知蒙昧の結果では断じてない。それどころか、今回の結果はアメリカ社会の底力の深さと巨大さを決定的な形で示すものである。

今回の大統領選挙がもたらす影響は非常に大きく、その影響を受けないものは何一つない。この事はそれこそ、あっという間に明らかになっていくだろう。

なぜ世論調査は外したか

やはり、世論調査はまったく当てにならなかった。

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僕は、今回の選挙は世論調査の結果は全く信用できないと思っていた。それは社会全体に、ヒラリーを支持するという事には正しい事で、トランプを支持する事は道徳的に間違っているのだ、という空気が強く存在していたからである。

たとえば今回の選挙戦で、ヒラリーはトランプだけではなく、トランプの支持者まで攻撃していた。ヒラリーを後援していた主流メディアもさすがにこれには批判的だったようだが、これは異常な事である。

前回の選挙ではミット・ロムニーオバマ民主党と共和党が候補者だったわけだけれども、その時はこのような事はあり得なかった。ロムニーを支持しようがオバマを支持しようが、その事自体が間違っているという人はいなかった。

しかし、今回の選挙戦では、トランプを支持するという事自体が非難の対象となっていた。トランプを支持するような人間には何をしてもよいというような雰囲気だった。

だから、今回の選挙戦ではトランプを支持していてもその事を黙っている人が多かった。

もしトランプを支持していることがバレたら人間関係に支障が生じるし、場合によっては直接的な危害を加えられる事も考えられるからである。

たとえトランプを支持していても、この事を怖くて言い出せないのだ。アメリカ全体がこのような恐怖に覆われていた。共産主義国で政府を批判する事がおそろしいのと同じ事である。

そのような状況だったので、世論調査による予想は現実よりもヒラリー有利に傾いたものだった。トランプ支持者が世論調査で自分の立場を正確に答えなかったからである。具体的には世論調査に回答を拒否する人が多かったという。

もし世論調査が、明確な政治意思を持ちながら回答を拒否する人のことを予想に織り込んでいない場合、予想はまったく現実から乖離したものになってしまう(どの程度のトランプ支持者がどのように世論調査に非協力的だったかについては、これから研究が行われるだろう)。

怒りのレベルと投票率

投票をするにはエネルギーが必要である。投票にかかるエネルギーなど大したことではないといえばそうだが、そもそも政治に関わる事自体に面倒がある。

やっぱり、投票に必要なエネルギーのエネルギー源というのは基本的には怒りだと思う。

もちろん普段選挙に行くことが習慣になっている人にとっては、投票するために怒りは必要ない。怒っていようが怒っていまいが投票所に足を運ぶのが模範的な有権者である。

しかし、投票の習慣が無い人は、政権の政策に合意しているという理由で政権を支持するという投票をする、という事は普通しない。つまり、オバマの政治に満足していてもヒラリーに投票する事はない。

そのような有権者が投票をする場合、それは投票しなければ気がすまないくらいのレベルの怒りを持っている場合である。

もし、激戦州の有権者100人のうちで1人でもそのような有権者がいれば、これは2パーセントの開きになり選挙結果に決定的な影響を与える。

2大政党制においては、どちらの党も勝つ確率が50パーセントになるように党の在り方が調整されていく。2012年の大統領選では、2大政党への票数の内でオバマの得票数は全体の51.5%だった。しかし、民主党が確保した選挙人は332人だったのに対し、共和党の選挙人は206人にとどまった。

だから、普段は投票に行かない有権者が明確な政治意思を持って投票すると、結果は劇的なものになる。

トランプの「差別発言」はどれくらい影響したか?

今回の選挙で、ヒラリーはトランプがラティーノなどのマイノリティーを侮辱している、としてマイノリティーの怒りを煽る選挙戦を展開した。

しかし、トランプの「差別発言」を聞いて実際に激怒したマイノリティーがどれくらいいたかは疑わしい。

トランプの発言のおかげで各種の差別が始まるのではないか、と危惧している人は少なくないが、その数と恐怖の強さはヒラリーが期待していたほどではなかった。

事あるごとにヒラリーや主要メディアは「差別発言」に対して激怒してみせたが、結局の所これらは本質的にはどれも重箱の隅をつつくような事である。だからヒラリーがどんなに大声で叫べば叫ぶほど、どこか人工的な感じがしてしまう。

マイノリティーの有権者で、ヒラリーの言葉に作為というか、わざとらしさを感じた人は多かったと思う。

 

ニューヨークで生まれ育ったトランプには、もともと人種的差別的な意識があまりない。

ラティーノやアフリカ系アメリカ人とも普通に付き合ってきた人物で、そもそも自分の会社で大量にマイノリティーを雇用している。だからトランプはマイノリティーのコミュニティーともコネクションを持っている。マイノリティーでトランプを支持する人は少なくない。

だいたい、トランプは元々は民主党側の人間で、共和党の中では最も保守的でない考えかたをする人間に分類される。そのためにトランプは「ニューヨーク・リパブリカン(共和党員)」だと保守的な共和党員から批判されている。

そんなわけだから、トランプの「差別発言」は主流メディアが騒ぐほど影響しない。本人も何を言われても平然としている(私は人種主義者ではありません、などと必死に説明する代わりに、平然としている所が非常にトランプらしい)。

 

たしかに、トランプの「差別発言」(というか、トランプ支持者が参加するムーブメント)に危機感をもつ人はいたが、そういう人はもともと選挙になったら必ず投票所に足を運んで民主党に投票する人と重複する。

問題は、普段投票をしないマイノリティーで、投票をすることを決意するくらい恐怖を感じていた有権者がどれくらいいたのか、ということだ。

今回の選挙戦で、主要メディアは大はしゃぎで、ラティーノ期日前投票が大幅に増加したと報じた。

どれくらいが「新規」だったのだろうか?

今回、ヒラリーは前回に民主党が勝ったフロリダを落とした。ヒラリーの扇動は期待したほどの効果はなかったと思う。それどころか、ヒラリーのいう「人種差別主義者」をますます激怒させて投票所に向かわせるという意味では逆効果だったかもしれない。

要するに、ヒラリーの選挙戦略は全く見当違いのものだった。

もしやるなら、人種差別は許されない、というような綺麗事をいうのではなく、トランプが大統領になれば人種差別の嵐が吹き荒れる、と言って恐怖を煽れるだけ煽らなければいけない。

もしかしてそのような戦略が新たな人種差別を起こすかもしれない、と いう危惧があったのかもしれないが、中途半端な事ならばしない方がいい。

まあ、安全な事しか言いたくなかったのだろう。

 

ラティーノを始めとするマイノリティーが全員、トランプの発言に腹を立てているという考えは完全に間違っている。

マイノリティーの中には、トランプのリアリティー番組を毎週楽しみにしていた人も沢山いたわけだが、そういうマイノリティーが「差別発言」をきっかけでトランプを憎むようになるとは考えにくい。

トランプのリアリティー番組は今回の選挙戦で、主要メディアやリベラル知識人が思っている以上に重要な役割を果たしたと思う。

リアリティー番組を見れば、トランプの人柄が分かるからだ。

言葉はウソをつくが、映像はごまかせない。

しかし、もしトランプのリアリティー番組を見ていなくても、トランプはただ、話を大げさに言っているだけだと常識的に考えるマイノリティーはいくらでもいたし、中にはトランプの「差別発言」をゲラゲラ笑いながらみているマイノリティーだっていたはずだ。

そのようなマイノリティーがいる事を、ヒラリーは認識していたのだろうか?

ヒラリーの選挙戦略の失敗は、民主党のもつ認識がマイノリティーの現実から乖離している事を強く示唆するものである(そこらへんは、9条を守れと大騒ぎして失笑を買った日本の民主党と似ている所がある)。

結局、ヒラリーらは内輪で盛り上がっていただけだった、という事だ。

選挙の予想と怒りの差

選挙の結果はどちらを支持しているかだけでは決まらない。支持しているだけではダメで、投票しなければ意味がないのである。

選挙の結果はどれくらいの人数に支持されているかではなく、どれくらいの票が投じられたかで決まる。

そして、実際に票が投じられるかどうかは、投票に向かうために十分な怒りがあるかどうかで決まるのだ。

 

僕は、今回の選挙戦では全体的にいって、ヒラリー支持者の怒りと、トランプ支持者の怒りではトランプ支持者の怒りのほうがはるかに強いだろうと予想していた。

ヒラリーは色々な差別に反対していたが、そんなものは要するに「9条改正反対」とか「原発反対」みたいなものである。

普通の人にとってはどうでもいい話だ(どうでもいい話だったからヒラリーは負けたわけである)。

それに比べて、移民やイスラム自由貿易の脅威に関する怒りは各種差別に対する怒りよりもはるかに強いだろうと思った。

これらの問題は、多くの人々が直接的に恐怖を感じている問題だからだ。

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これはRCPによる今回の選挙の予想である。灰色は接戦になっている州を示す。

世論調査が現実よりもヒラリー有利になっている事と、トランプ支持者の方がヒラリー支持者よりも投票に行きやすいだろうという事を考えて、僕は上の図の灰色の州はかなりの部分赤に転ぶだろうと予想していた。

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これが選挙結果である。 ネバダ(NV)・コロラド(CO)・ニューメキシコ(NM)・ヴァージニア(VA)・メイン(ME)・ニューハンプシャー(NH)以外は全部共和党が勝っている事がわかる。民主党が勝つと予想されていたウィスコンシンも共和党の方に転んだ。

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これは最も有名な世論調査専門家であるネイト・シルバーによる予想である。

専門家は毎日のようにこのような予想を見せられて、ヒラリーが勝つと確信していたわけだが、これらの予報は世論調査に答えなかった人が中立的に行動すると仮定したものだった。実際は全く逆の理由で選挙結果に答えなかった人がいるにも関わらずである。

これからの選挙予想は怒りなどの感情を数値化することが重要になってくるだろう。なぜなら、投票行動(投票するか寝てしまうか、もし投票するならば現政権を信任するかしないか)は理屈ではなく、感情によって決定されるからである。

以前に紹介したリヒトマンによる予想は、まさに人々の怒りを数値化する予想システムである。リヒトマンは政権の実績に対して13の項目を検証し、今回も予想を的中させた。

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もし今回の選挙期間中、リヒトマンの「13の鍵」を使って世論調査を行っていれば、非常に有益なデータが得られたに違いない。

アメリカの民主党

民主党のマイノリティー票が伸び悩んだのは、民主党が日本の民主党(今は党名が変わっているが)のように見られるようになってきた、ということだろう。

オバマ政権はあまりにも左翼的な問題に深入りしすぎた。「権力は使えば減る」とよく言うが、オバマは誰が得をするわけでもない理想主義のために政治的リソースを無駄に消費し、本当に解決すべき問題を解決するためにリソースを十分に回せなかった。

たしかにこれらの問題に取り組めば主要メディアには高く評価されるかもしれないが、銃が規制されて核が廃絶されたところでマイノリティーの暮らしが楽になるわけではない。

民主党が9条改正の問題で大騒ぎしても日本国民の暮らしが良くなるわけではないのと同じである。

今回、ヒラリーは差別の問題を全面に打ち出して選挙活動を行った。オバマと同じように、左翼的なテーマを前面に打ち出したわけである。しかしそれは、民進党憲法9条の改正反対をテーマにして選挙を戦うようなものだったのではないだろうか。

 

トランプは今後、100兆円に及ぶ公共投資を行う事になっている。

小さい政府が正しいと考えている国はいつもそうなのだが、アメリカのインフラは完全に老朽化していてアメリカ経済の足を引っ張るほどになっている。

ところが、トランプは小さい政府などに全く興味が無い。だから、今まで放置されてきたインフラに対して大量に投資をおこなうつもりでいるのだ。

これらの大規模な公共投資で最も恩恵を受けるのは、低所得層の人種マイノリティーである。これから何十兆円ものカネがラティーノや黒人のコミュニティーを潤すことになるのだ。

もしトランプがメキシコとの国境に壁を作る時、それを作って賃金を受け取るのは黒人やラティーノなのである。

ヒラリーが大統領になっても人種差別が軽減される保証はないが、こちらの方は確実に恩恵がある。選挙で寝てしまう人種マイノリティーが多かったのも当然の話だ。

オバマが大統領をやっている間に、黒人やラティーノの生活が良くなったという話は全く聞かない。これらの人種マイノリティーのかなりの部分はトランプ支持に回ることになるだろう。

そういう事も理解せずに左翼的な議論に熱中しているクリントン支持者を見ると、その救いようのなさの度合いは日本の左翼と全く変わらないな、と思う。

蓄財の規制

トランプはインフレ政策を取ると考えられている。

本質的にインフレには再配分機能があり、ある種の公務員や労働貴族がインフレに反対するのはそのためだ。

今の課税システムは機能していない。

富裕層の資産の50パーセントを取り上げるよりも、富裕層の資産の価値を半分にするほうが現実的だ。

トランプの減税政策は、今の財政スキームが実行不可能なものだという認識が広まっている事を示すものである。 

極左化した社会の正常化プロセス

いま、あらゆる社会問題の中で最も深刻な問題は、間違いなくポリティカル・コレクトネスである。

少しでもマイノリティーに不都合な事をいうと差別主義者だと決めつけられる。どれほど正当な議論であっても、マイノリティーの機嫌を損なうような議論はすべて問題とされる。

差別主義者だと認定されたら、人民裁判自己批判を強要され、職場から追放される。うっかり共産主義を否定するような事を言ったことがバレたら人生終わりの共産主義国家と同じである。

そして、マイノリティーに対する暴力は絶対に許されないが、マイノリティーが振るう暴力は許容される。

気に入らない人間は弾圧し、社会的に抹殺する。

そのメンタリティーは、かつて「革命」に熱中していた極左活動家となんら変わるところがない。

 

マイノリティーに不都合な議論をすることは許されず、情報も出てこない社会では正常な判断をすることができない。共産主義国家で正常な判断を行う事が出来ないのと同じである。

この問題は西側諸国すべてに共通する問題だが、アメリカではほとんど気違いじみた状況になっている。

今回、トランプはメキシコとの国境に壁を作ることを公約とした。

アメリカとメキシコとの間には境界がない。メキシコ人が自由にアメリカに入国できるようになっている。柵などがある部分もあるけれども、簡単によじ登れるくらいの高さである。

もし、不法入国したメキシコ人が深刻な犯罪を犯し、その後メキシコに逃げ帰ったらどうなるのか?

もちろん、ドラッグの輸入もやり放題である。

国境がないということは、アメリカの国境付近が無法地帯になっているということである。法治国家としてこんな事が許されていいのだろうか?と疑問に思うが、トランプが国境との間に壁を作るというだけで、トランプは社会を分断する危険な人種差別主義者だということになってしまうのだ。

トランプはただ、現在放置されている無法状態を是正するべきだと言っているだけだが、今のアメリカではこんな当たり前の事も言えなくなっている。

今回の大統領選で、アメリカのメディアは口をそろえてトランプの「人種差別」を煽っていると非難したが、これらのメディアが不法入国したメキシコ人がどれくらい犯罪をしているのかをレポートする事は全くない。選挙期間中にCNNを見ていても、国境付近で何が起きているのか、という報道は一度もなかった。

もし国境付近の状況をしらべた結果、不法入国したメキシコ人はほとんど犯罪をしていなかった、というのならそれこそ報道すべき事だ。もしなんの調査もしていないならば、CNNは報道機関の役割を果たしていない。

 

主流メディアがトランプを人種差別主義者と決めつける理由は、「壁を作る」というような事を言ったという以外は何もない。メディアはトランプの人種差別発言をそれなりに必死に探したはずだが、結局そのような情報をメディアは見つけることができなかった。

だから演説を抜き出して繰り返し流し、人種差別だと紋切型の批判を繰り返すしかない。昔の共産主義者が「反革命分子!」「反革命分子!」「反革命分子!」と絶叫するのと同じである。中味がないから絶叫するしかないのだ。

今のメディアはほとんど人民日報かプラウダのようになっている。言っていい事が完全に決まっており、言ってはいけない事はそれがどんなに本当であっても言ってはいけない。

今の主流派メディアは完全に言論を弾圧するための権力機関になっている。トランプが大統領になった事は、このような言論弾圧が通じなくなっている事の現れに他ならない。

アメリカ国民は主流メディアが毎日行うプロパガンダと人民裁判にうんざりしている。

このような言論弾圧を促進するヒラリーが負け、言論弾圧に独自の方法で挑戦したトランプが勝ったのは必然と言える。言論の自由が無い限りアメリカが現在直面している問題は解決できないことに、アメリカ国民は気づいているのだ。 

今回の選挙におけるヒラリーの敗北は正に主流メディアのプロパガンダが敗北したという事であり、言論の自由という観点からは極めて重要な出来事である。

カモフラージュのための正義

ポリティカル・コレクトネスは「エリート」の既得権益と深く結びついている。

リベラル派の不可解な行動は、すべてこれで説明がつく。

なにかリベラル派がおかしなことをしている場合は裏に既得権益があると考えたほうがいい。

これらの「エリート」は社会をポリティカル・コレクトなものにする事によって一方的に利益を享受し、コストをすべてそれ以外の人に押し付ける。そして、その事によってますます利益を享受するという構造になっているのだ。要するに、一種のフリーライドである。

このような搾取の構造はポリティカル・コレクトネスによりカモフラージュされている。ポリティカル・コレクトネスに基づいたことを言う人は私利私欲を考えない、公共精神のある、心の広い善人に見えるので、利権の構造がわかりにくい。

そして、もしこの利権構造を批判する人間がいたら、差別主義者だとして弾圧すればよい。

ヒラリーは長年、このようなポリティカル・コレクトネスに基づいた政治を推進してきた中心人物である。

今回の大統領選挙で、名門大学の学生のほとんど全員がヒラリーを支持したのは偶然ではない。

ヒラリーが負けた後でこれらの学生は悔しがって涙を流したが、この事はいかにこの利権が巨大なものであるかを表している。

結局、このような利権構造が人々にばれ始めているという事だろう。

これがばれてしまうと困るので、近年主流メディアはますますポリティカル・コレクトネスによる言論弾圧を劇化させているが、しかしこれはリベラル派が考えるような時代の進歩では決してない。

終わりかけのシステムの崩壊過程においてよく見られる最後の悪あがきにすぎないのである。

民主主義の重要性

今回のヒラリーの選挙キャンペーンほど、既得権益層(エスタブリッシュメント)の無能さを表すものはなかったと思う。

 

今回の大統領選挙が始まった時にまず驚いたのは、あのHと矢印を組み合わせた変なロゴである。

僕は始めてあのロゴを見たとき、ヒラリーは負けるんじゃないかな、と思った。あんな変なロゴで勝てるとは思わなかった。いったい誰があんな変なロゴを採用したのだろうと不思議で仕方がなかった。

僕が大統領候補だったら、あんな変なロゴを使って選挙をするのは拒絶するし、こんなロゴを提案してきた人間はすぐクビにする。これだったら文字だけのほうが遥かにいい。

 

キャッチフレーズも全く冴えないものだった。

意味だけを考えるならば'Stronger, Together(共に、より強く)'というのは悪くないと思う。しかし、いかんせん'Stronger, Together'では言葉の響きが弱すぎる。Strongerという言葉は響きが複雑だし、言葉が説明的すぎる。

もう少し、ましなキャッチフレーズはなかったのだろうか?

政治で何よりも重要なのは言葉である。ヒラリーの言語感覚の弱さにはヒラリーの政治家としての限界が表れている。

ネガティブキャンペーン用のコマーシャルも、本当にひどいものだった。人種差別に反対をするCMだったが、CNNで少し流れているものを見ただけで分かるくらいひどかった。映像作品としての質が低いのだ。あんなのを見せられても白けるだけだけで、完全に逆効果だと思う。

 

選挙で共和党が勝つことが明らかになっても、ヒラリーはなかなか出てこなかった。ヒラリーの敗北宣言がベルリンの壁の崩壊と同じくらい重要だと思っていた僕は、この歴史的瞬間を目撃しようとテレビの前でずっと待っていた。

しかし、テレビでは1時間半後に出てくると言ったのに、一時間半待ってもヒラリーは全然出てこない。僕はヒラリーは朝にアメリカ国民がテレビを見ている時間を選んで国民にメッセージを伝えようとしているのかと思った。しかし現地時間で朝になっても一向に出てこない。

仕方がないから、もう一時間テレビを見た後で録画して寝た。

結局、ヒラリーは現地時間の11時半という中途半端な時間になって、おかしな服を来てやっと出てきた。

負けるという事を全く想定していなかったのだ。

今回の選挙が、世論調査のデータが当てにならずどちらに転んでも分からない選挙だったという事はまともな人間ならば誰でもわかる事だ。それなのに100%勝つと思い込んでいた事に驚いた。おめでたくも100%ヒラリーが勝つと思っていた民主党支持者と同じレベルだったのだ。

こんなことでは大統領をやるのは無理だと思った。

選挙戦の最終日、ヒラリーは国民に和解を呼びかけるテレビCMを流していた。民主党の関係者も、全員がどのように社会の分断に対処するかというような話ばかりしていた。

負ける前日に勝った後の事を話していたのだ。

 

今回の選挙キャンペーンで、ヒラリーらはいかに自分たちが無能であるかを宣伝していたようなものである。

時代の流れからずれているからこういう事になる。

ヒラリーとトランプの選挙キャンペーンを見比べてみても、トランプが勝つのは当然だな、と思うしかない。

これが選挙キャンペーンならまだいいが、選挙キャンペーンでおかしな事をしていたら国政でもおかしな事をするにきまっているからだ。

 

ヒラリーと比べ、トランプははるかに強力なキャンペーンを展開した。

「Women for Trump」 、「Blacks for Trump」というプラカードは、トランプをマイノリティーの敵にしようと必死な主流メディアのおかしさを伝えるという意味で非常に効果的だったと思う。

スローガンもよかった。「Make America Great Again」というスローガンはアメリカの問題とともに今後アメリカが進むべき方向を明確に示している。

今のアメリカで起きている事は偉大(Great)ではないのだ。

 

今回の選挙でヒラリーは共和党の2.5倍のカネを使い、各分野のプロフェッショナルと組織を動員し、メディアなどの既得権益層から全面支援をうけて選挙運動を行った。

その結果がこれなのだ。

ヒラリーは総得票数では勝っているが、内容としては大差で負けていると思う。

ここ最近の既存メディアでは、既得権益層に対する批判に対して、ポピュリズムはいけない、衆愚政治に反対しないといけない、民主主義には限界がある、エリートによる賢人政治にしないといけない、という喧伝がしきりに行われている。

問題は、往々にして「賢人」の判断というものは一般人のもつ常識よりもはるかに愚かなものであるという事だ。

それはトランプ支持者の「愚かさ」を嘆くヒラリーの支持者をみているとよくわかる。

賢人政治を行うには、賢人はあまりにも愚かすぎるのだ。

 

今回の大統領選挙は民主主義がいかに重要なものであるかを示している。

セレブ政治家

僕が思うに、カリスマというのは必然性だと思う。カリスマのある人間というのは、やはりカリスマを持つ必然性があるのである。

例えばオバマはそのような人物だったと思うのだ。オバマは歴史の転換点というか、一つの歴史に幕を引くために必然性をもって現れた人物だと思う。

今から見れば、アメリカにおける公民権運動の集大成として出てきたオバマのやってきた事はペレストロイカのようなものだった。ペレストロイカが始まった時、共産主義者は新しい共産主義が始まると思ったが、実際にはそれは終わりだったわけである。

だからといってオバマのやった事が無駄だというわけではない。ペレストロイカが失敗したからといってペレストロイカが無駄だということにはならないのと同じである。

一つの時代に区切りをつけるというのは非常に重要な事である。なぜなら、一つの時代に区切りが付いていれば、一つの時代を新しい気分で始める事ができるからだ。

 

ヒラリーはどうであろうか?

ヒラリーについて考えると、ヒラリーが大統領をやる必然性が一体何なのかよく分からない。ヒラリーの特徴というのは、もちろん女性であるということである。しかし、今の時代に女性が大統領をやる必然性がどこにあるのかはっきりしない。

もしヒラリーに大名義分があるのならば、それは女性が社会進出をすることは無条件に善なので女性が大統領になるのは無条件に善だから、という事であるだろう。

しかし主流メディアが男女同権の太鼓をたたいている影では、フェミニズムに対する懐疑が静かに広まりつつある。怖くてみんな黙っているが、フェミニズムに懐疑的な人はかなりいる。

男女同権になったからといって、女性の幸せの総量が増えるわけではないのだ。

それどころか、男女同権のせいで女性の幸せの総量は減少しているのかもしれない。

伝統主義的な女性で、ヒラリーをアメリカ的な生き方を破壊する危険人物として敵視する人は少なくない。それらの女性にとって、ヒラリーなどは説教をする金持ち女でしかない。

これまでのフェミニズムはだんだんと時代遅れになりつつある。結局それらは一部の特権的な女性のもので、平均的な女性のためのものではなかった。

旧来的なフェミニズムを全面的に打ち出したヒラリーが負けるのは当然の事だといえる。初めての女性大統領を目指すという事自体が旧来型のフェミニズムなのだから。

 

ヒラリーの演説を聞いていて思うのは、雰囲気がセレブに似ているという事だ。要するに、ヒラリーというのはビヨンセみたいなものなのだ。

こういうセレブというのは、普段はニューヨークやカルフォルニアなどで豪華な生活を送り、たまにアフリカなどにいって慈善活動をやっている。つまり、豪華な個人生活とそれとは全く逆の世界との間を往復しているわけである。

その逆の世界において、セレブは全くの他人である。芸能の世界で何十億も稼いでいるのだから当然の事だ。もしその逆の世界に同化してしまうようなら、それはセレブではない。

このようなセレブがスピーチなどで慈善事業などについて話す時、それはどうしても他人としての話になってしまう。どんなに熱心に慈善事業に取り組んでいてもである。

セレブの世界からやってきたのだから仕方がない。

セレブみたいに、ビル・クリントンとヒラリーも財団をやっている。そして財団の活動として世界中で講演をしている。講演料は驚くほど高い。一回の講演で500万、600万、場合によっては1,000万以上も稼ぐ。

これらの講演料は政治献金としての色合いが強いのだが、ある意味でヒラリーのやっている事はセレブのようなものだとも言える。ビヨンセが一つのライブで大金を稼ぐように、ヒラリーも世界中でライブをして周りながら大金を稼ぐのである。そしてヒラリーは財団の収入で裕福に暮らしている。ビヨンセが裕福に暮らすようにである。

そのような生活をしてきたものだから、ヒラリーの演説には説得力がない。セレブがやるスピーチに底が見えるのと同じである。政治というものは全身全霊をもってやらないとだめなのだ。セレブの世界と政治の世界を往復しながらできるものではないのである。

今回の大統領選で、映画産業や音楽業界のセレブがほとんど全員クリントン支持だったのは象徴的だ。似たもの同士なのだ。

 

ヒラリーが大統領になりたかったのは、大統領になりたかったからだと思う。典型的な野心先行型である。ヒラリーのスピーチを聞いているとこの事がはっきりわかる。野心先行でもある程度まではいくけれども、大統領になるのは無理だ。

大統領になるにはカリスマが必要だ。大統領は一人しかいないので、他の人間とは本質的に違っていないといけないからだ。そういう意味でも、今回の結論は当然といえば当然の結末である。ヒラリーのように野心的な人間はいくらでもいるけれども、トランプは世界で一人しかいないからだ。

まあ、エリザベス・ウォレンみたいに法律家とか大学教授をやっていたほうが良かったのかもしれない。

 

ある意味、ヒラリーの選挙戦は20年以上前から始まっていたと言える。今回の大統領選は、ヒラリーがこの20年でやってきた事に対する信任投票という側面があった。

ヒラリーが深く関与したNAFTAによって大ダメージを受けた工業地帯の主婦のかなりの部分が、今回の選挙ではトランプに投票した。

大票田のオハイオ、ミシガン、ウィスコンシンで負けた時、ヒラリーは何を考えたのだろうか。

クリントン財団で行った蓄財も、メール疑惑も、国務長官時代に行った中東政策の失敗とその恐ろしい帰結も、大統領選に勝つためには何の役にも立たなかった。

リベラル派はヒラリーを「これまでで最も大統領に適した人物」であると喧伝したが、これは風説の流布というものだろう。

なんで議会から保全命令を受け取った後で証拠を破壊するような人物が「最も大統領に適している」のか。僕には冗談にしか思えない。

ヒラリーが犯罪行為を隠蔽しようとしてメールを消去したのかは僕は分からないし、もし犯罪行為があったとしてもどうせチンケなものであっただろう。はっきりしているのは、保全命令を無視してメールを消去したのは政治家として絶対に許されない'poor judgement(ひどい判断)'であるという事だ。

2008年の予備選でヒラリーがオバマに負けたのは、ヒラリーがイラク戦争に賛成票を投じたからだった。これはヒラリーの'poor judgement'をはっきりと示すものだった。同じ事が今度は本選で起きたのだ。

 

ヒラリーにとって、今回の選挙戦は本質的には時間稼ぎだったと思う。

今回の選挙戦で、ヒラリーは主に

  • 差別反対
  • 大統領としての適格性

の2つを問題にしていた。こういう問題を話していれば無難だからだ。

とにかく安全に勝とうという事だったのだろう。抽象的な一般論が多かった。あまり話を具体的にすると、それが自分に帰ってくるからだ。

強みを打ち出すというよりは、大規模な広報戦略に大金を投下して人々の注意を不都合な話からそらそうとするような選挙だったと思う。

そもそもにして話すべき中味がなかったというのもある。だから「人種差別主義者」「女性差別主義者」「偏狭」「外国人嫌い」などの退屈な決まり文句を並べたてるしかなかったのだ。特に何か新しいアイディアがあるわけではないのだ。

 

トランプの方は、違法入国の問題、自由貿易の問題、ヒラリーの過去の実績の問題などを強く打ち出す事ができた。

トランプにも弱みはあったが、それは致命的なものではなかった。トランプのような人物には少しくらい欠陥があってもいいのだ。トランプがどういう人物なのかは誰でも分かっている事である。少しくらい欠陥があってもトランプだから仕方がない、ということですんでしまうのである。

ヒラリーの場合はそうではない。ヒラリーのような人物に失敗や欠陥があると、それは非常に影響する。ヒラリーだから仕方がない、ということには絶対ならない。

人徳がないのだ。

今回の結果はその一言に尽きるのかもしれない。

 

ヒラリーが演説で無難なことばかりを話していたのは、ヒラリーにアジテーション(扇動)の才能がないというのもある。

オバマにはアジテーションの才能があった。ほとんどアジテーションのおかげで大統領になったものだ。

僕はオバマの話していることは時代遅れだと思っているが、オバマの演説はいつも熱心に聞いている。オバマの演説は面白いのだ。ある時は冗談を言い、怒る時には絶叫する。ほとんど芸術とか人間国宝のレベルである。どこまでスピーチライターが書いているのかは分からないが、とにかく面白いのである。

ヒラリーの冗談は、信じられないほどつまらない。

せいぜい、少しは面白いという程度だ。

アジテーションをするには笑いのセンスが必要になる。笑いというのは本質を突くところから生じるからだ。笑いのセンスがなければアジテーションは出来ない。

ヒラリーの冗談がつまらないのは、物事の本質を見抜く力が弱いからだ。

ヒラリーの話が正しいはずなのにどこか的外れに聞こえるのはそのためだし、だからあれほど優秀なのに重要な所でヘマをするのである。

 

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投票日の数日前、ヒラリーはビヨンセとラッパーのJay-z夫妻を招いて大イベントを行った。

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これを見たトランプは、演説の最終日に「私にはジェイロー(アメリカのゼリエースのようなもの)とかジェイ・Zを連れてくる必要はない。私は一人でここにいる。私は一人でここにいる(I'm here all by myself)。ピアノもギターも、なにもない。しかしここにあるものは何か?ここにいる全員が持っているのは、素晴らしい考えと素晴らしいヴィジョン(great ideas and great vision)なのだ」と発言した。

このトランプの一言で、ビヨンセもジェイ・Zも、何もかもが全く滑稽なものになってしまった。

これが政治というものだ。ヒラリーに見えていなかったものをトランプは見抜いていたのだ。

 

ヒラリーの立ち位置はマケインのものに近かったかもしれない。マケインが大統領になったら、マケインは一生懸命に良心的な政治をしようとしたと思う。しかし、マケインが大統領になる必然性というものがどこにも見当たらなかったというのもまた事実である。

やはり、大統領というのはヴィジョナリーでなければならないのだ。本質が見えていないといけないのだ。先が見えてないといけないのである。

もちろん、マケインやヒラリーが大統領になったとしても時代は進む。過去の時代の区切りを付けるというということも重要な事である。しかし、もし全く新しい変化の可能性があるならば、有権者は変化の方を選択する。だからヒラリーはトランプに負けたのである。2008年にマケインがオバマに負けたようにである。

 

ヒラリーは何もかも手に入れようとして、結局は中途半端に終わった感じがする。

信念がないからそういう事になる。

不要なものを大量にもつ一方で、政治家にとって本当に必要なものを中途半端にしか持ち合わせてなかった所にヒラリーの困難さがあったように思えてならない。

中途半端に持つ人の人生というのは、なにも持たない人の人生よりも厳しい。特に、必要なものがほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ足りないという場合はそうである。

まあ、いろいろと無理をしていたのだろう。

最後のスピーチを見てそう思った。

今後に考えられる影響

共和党と民主党は党の性質を変えると思う。

共和党は自民党のように公共投資をする政党になり、民主党は昔の民主党のように左翼的な主張をする一方で歳出をケチる党になるのではないか。

最近の共和党は自由主義的なイデオロギーを全面に打ち出す政党だったが、これからは国家主義的な傾向を強めていく事が予想される。

ナショナリズムというのは本質に左翼的な側面がある。

要するに、アイゼンハワーの時代みたいな昔の共和党に戻るということだ。

人口動態の変化も共和党のあり方に大きな影響を与えるだろう。

アメリカ南部ではラティーノがものすごい勢いで増えている。今回はなんとか勝てたものの、共和党は今後、これらのラティーノからどのように得票していくか対応を迫られることになる。

日本の低所得者層が自民党に投票するように、長期的にはラティーノは共和党に投票するようになると思う。

 

今回の大統領選挙を境に、ポリティカル・コレクトネスは退潮していくと思う。

具体的には、いままで絶対悪と断罪されてきた問題がつまらない問題とみなされるようになり、話題にならなくなっていくだろう。

これまで主流メディアの報道は言論弾圧として機能してきたが、社会の雰囲気が変わってくると今度は弾圧対象の宣伝として機能するようになる。

主流メディアが今まで力をもってきたのは情報を独占していたからだが、批判をすることで価値観の選択肢が出来てしまうのだ。

ポリティカル・コレクトネスはグローバリゼーションが作り出した既得権益と表裏一体の関係にあり、後者が批判されるようになればその絶対性は失われる。

人々が全員同じ考えを持つ社会をつくるというのは魅力的な考えで、共産主義ポリティカル・コレクトネスが目指したのもこれだった。

それらは本質的には暴力によって暴力を抑え込むためのものであり、その意味では一定の正当性がある。

問題は、これらのイデオロギーは真実を捻じ曲げる事で成り立っているものだという事だ。

やはり、人は真実に対する暴力には耐えられないのだ。

 

蓄財に対する規制は強化されると思う。

今の社会の問題のかなりの部分は、カネの価値が減らないことからきている。

こういう社会では蓄財に対するインセンティブが働く。しかしカネというのは使う事で意味を持つので、こういう社会ではカネが本来の機能を失っているとも言える。

これから社会はインフレに向かうと思う。

インフレになるとカネを他の資産に変えて蓄財をしようとする人が出てくるので、これらの蓄財手段に対する規制は強化されていくだろう。

大きな島国のようなものであるアメリカは最終手段として鎖国政策(autarky)に打って出ることができる事を忘れるべきではない(これは日本も同じである。日本は300年間鎖国状態だったことがある)。

 

トランプは期待が最低の状態で政権をスタートさせることになる。

リベラル派はトランプは悪い事しかしないと考えている。支持者は実際に起こった事に驚くばかりで、期待そのものをもっていない。

誰も期待していない状態で政権をスタートさせるのは悪い事ではない。

レーガンが大統領になった時、リベラル派は芸能人が大統領になるようでは世界は終わりだと大騒ぎしたが、レーガンの任期が終わってみるとアメリカの歴史の中でもレーガンはもっとも成功した大統領だった。

世間の評判はあてにならない。

 

ヒラリーは新しい考えをなにも持っていなかったが、トランプとその支持者が新しい考えを持っている事は明らかである。

トランプの支持者は馬鹿ではない。

専門家がトランプが大統領になるのは不可能だと口を揃える中で、早い時期からトランプが大統領になる必然性を理解し、大きなリスクを取った人達である。

 

もし基本的な考え方が間違っていなければ、トランプの政治が失敗することはないと思う。

リアリティー番組で有名になった大富豪のトランプは、国民すべてに伝わる言葉を持っている。

これはヒラリーが持っていない強みである。

 

トランプの政治が成功した場合、日本に与える影響は大きい。アメリカで正しいとされたことを日本の既得権益者層が否定することはほとんど不可能である。