グローバル引きこもりブログ

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[翻訳] かつてトランプとヒラリーが友人だった頃

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http://www.nytimes.com/2016/11/06/magazine/when-hillary-and-donald-were-friends.html

(訳注・文章中の金額はドルのままですが、だいたい1ドルは100円くらいと考えればいいです。つまり100,000ドルはだいたい1千万円です。ちなみに2000年当時の年間平均レートは一ドル107円で、今現在のレートは102円)

センセーショナルで複雑な、世界でもっとも重要な地位をめぐるゲームの性質は2つの写真によく表れている。一つはドナルド・トランプが所有するマーラ・ラゴの社交クラブで開かれた彼の3度目の結婚式の写真である。そこには金色のシルクと真珠のネックレスを身にまとい、トランプに笑いかける新人の上院議員だったヒラリーと、ビル・クリントン、花嫁のメラニアが写っている。ニューヨークの社交界に詳しいデビッド・パトリック・コロンビアによると、まるでトランプとヒラリーは高校のカップルのようだったという。もう一つのもっと悪意のある光景は、先月セントルイスで行われたテレビ演説でのものである。血色の良いトランプが要点を力説しているヒラリーの背後からホラー映画の幽霊のように近づいていく。トランプの関係者席の最前列には、ビル・クリントンを強制猥褻したと非難している女性が3人、ヒラリーを見つめている。そして、それらの女性の近くには、チェルシービル・クリントンが厳しい表情で座っている。たった10年で何という違いだろう。ヒラリーとビルは10年前、豪華な披露宴で仲良くトランプと隣り合っていたのに、今ではトランプは敵意をむき出しにしてビルの不名誉な過去を掘り起こし、ヒラリーを牢屋に叩き込むと脅しているのである。

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私たちは今、2人のニューヨーカーによる大統領選の最終段階を目撃している所である。これはトーマス・デゥウェイとフランクリン・ルーズベルトが争って以来、72年ぶりの事である。共和党の42歳のニューヨーク州知事だったデゥウェイはトランプのように、62歳のルーズベルトを「疲れた老人」と攻撃した。勝者のパーティーも敗者のパーティーも、マンハッタンで開かれることになるだろう。ヒラリーはパーティーを、ガラスの天井と策謀の渦巻くジャビット・コンベンション・センターで開く予定になっている。1970年代、トランプはこのセンターの受注に成功した時、そこに自分の名前を付けたかったのだが、ニューヨーク市は受け付けなかった。

これは歴史的な人々を熱狂させる恐ろしい選挙である。この選挙は共和党を破壊し、民主党の性質を根本から変えるものであるかもしれない。しかし、この選挙のニューヨーク的な要素はほとんど見過ごされている。この点を指摘したのはリン・マヌエル・ミランダだけだった。「サタデー・ナイト・ライブ」で、ミランダは人々に、彼の手がけたミュージカル「ハミルトン」に出かけてこの気違いじみた選挙を忘れるように呼びかけた。「これは汚い、醜い、中傷しかない世界にどっぷりと浸った2人のニューヨークの政治家の話に過ぎない。逃避主義に限る」。

かつてエルウィン・ブルックス・ホワイトは、一つの闘技場であるニューヨークでは、剣闘士とプロモーターは協力して何かをすることができる、と書いたことがある。「トランプとヒラリーはここ2、30年間、この国の素晴らしい側面と低俗な側面を同時に表してきた人物だと思う」とマンハッタンの広告業界の人間でテレビ司会者のドニー・ドイッチュは言う。「私たちは彼らを通して、私たちの社会の浮き沈みを理解できるのである」。ドナルド・トランプヒラリー・クリントンが脚光を浴び、姿を変え、認め合い、そして殴り合うという物語はニューヨークの物語でもある。これらは権力、影響力、階級、社会、そして野心の物語である。今のトランプ・タワーが建ってる場所の近くに豪邸を持っていたエディス・ウォートンは、この物語に魅了されたかもしれない(訳注・文筆家エディス・ウォートンはトランプの出身校のウォートン・スクールに関係するジョセフ・ウォートンと少し関係があるらしい)

クリントン夫妻が本拠地をワシントンからニューヨークに移し始めたのは2000年の事だった。これはヒラリーがニューヨーク州の上院議員の地位を狙っていたためだが、モニカ・ルインスキー事件の影響から離れるためでもあった。ヒラリーがニューヨークに住んだことはなかったが、これはコスモポリタンであるニューヨーカーにとっては問題ではなかった。1964年にボストンとワシントン郊外の地盤を引き払った後、ニューヨークに移ってきたロバート・ケネディ―もそのようにして受け入れられたのである。ヒラリーはダニエル・パトリック・モイニハンの議席に狙いを定めていた。

ニューヨークにクリントン夫妻がやって来たとき、ニューヨークの裕福なエリートは神経質になっていた。ブッシュとゴアのどちらを支持するかで、これらのエリートは分断されていた。その時は、裕福な民主党員も共和党員も大体はヒラリーの側に付いた。ビジネスエリートはヒラリーよりも、むしろゴアに対して猜疑心を持っていた。その当時、民主党員は選挙結果が盗まれたと愚痴を言っていた。共和党員の方はというと、もう少しで選挙結果が盗まれる所だったと言っていた。

マンハッタンのインサイダーとして見られるのは得策ではないという事をヒラリーは理解していた。なので、ロバート・ケネディ―がロングアイランドを本拠地としたように、ヒラリーはウェストチェスターを本拠とした。彼女はヤンキーに好かれるニューヨーカーに変身し、シカゴ出身の五大湖を見て育った女性として選挙活動を行った。ニューヨークと、ニューヨークで9・11後に上院議員として活動するという経験はヒラリーを変えた。「ヒラリーはタフになった。彼女の人生がそうしたのだが、ニューヨークの影響もある」とチャールズ・シューマー・ニューヨーク州上院議員は語った。

ビルもイメージを変える必要があった。弾劾裁判とマルク・リッチの恩赦の後、ビルはいかがわしい人物とみられるようになっていた。彼はクリントン財団のためにカーネギーホールに豪華なオフィスを年に800,000ドルで借りようとして批判を浴び、この計画を放棄しなければならなかった。その代わりにビルはハーレムに210,000ドルのテナントを見つけ、そこに移った。マリガン(訳注・ティーショットを2回打ち、良い方を採用するというゴルフのプレー法)が大好きな元大統領はウェストチェスターのゴルフ場4つに入会を拒絶されたという話だった。当時、トランプは私にその驚きを語った事がある。「今では、クリントンはゴルフ場の会員になれないんだよ。元大統領がゴルフ場の会員にしてくれと懇願しているんだ。信じられない事だよ」。ビルは彼のイメージを改善するための周到なキャンペーンを開始した。大学で演説し、かつての仲間に彼の実績を話すよう依頼した。そのようにして評判を改善した後で、彼はクリントン財団を都心部に移転する事ができた。

ヒラリーの選挙運動が行われる一方で、クリントン夫妻は物乞いをしていた。1990年以来、夫妻はニューヨークでひっきりなしに資金集めをしていたが、2001年にクリントン財団を始めてウォール街と関連しはじめる頃にはますます資金面で逼迫した。しかし自伝の契約金、高額な講演の報酬、そしてロナルド・バークの投資会社のアドバイザーの地位のおかげで、クリントン夫妻は数多くの連邦訴訟のためにした借金から抜け出し、推定で230,000,000ドルものカネを今後15年で稼ぐことになる。

クリントン夫妻がニューヨークでの新しい生活に慣れる一方で、トランプも変化しつつあった。手がけるビジネスも高リスクの不動産ビジネスから、ほかの人の事業に自分の名前をライセンスするというライセンシングビジネスに変わり、厚かましい不動産業者からリアリティー・テレビ「見習い(The Apprentice)」のスターに変身した。トランプはクイーンズ地区の出身で、家族のカネでビジネスを始めた押しの強い人物だったが、社会階層を登っていくための梯子を持ち合わせていなかった。「Zアベニューにいても、トランプの心はいつもマンハッタンにあった」とトランプの伝記Trump: The Greatest Show On Earthを書いたウェイン・バレットは語る。

ニューヨークの社交界の伝統はロックフェラーとアスター一族によって始まった。礼儀正しさ、福祉、芸術がその伝統の中心としてある。乱暴な方法でカネを稼いだ人間は、あるいはそういう人間だからこそ、この伝統に敬意を払った。マイケル・ブルームバーグはこの典型例である。しかし、ドナルド・トランプはそうではなかった。ある有名な財団関係者が匿名で言うには(というのは、クリントン一家とトランプ一家は復讐心が強い事で有名だからなのだが)、金権貴族と激務をこなすエリートにとってトランプは好ましい人物とはみなされなかった、という。「彼は社会的なリーダーではなかった」。彼が言うには、ニューヨークというのはヘンリー・クラヴィスやスティーヴン・シュワルツマンのようなプライベート・エクイティー・ファンドのCEOが、つい良心に従って公共の福祉のために行動してしまう街なのである。彼らの社会的地位は、彼らが強大な企業を支配している事のみに由来しているのではない。「それは、何らかの形で病院や大学や文化施設に関連している。トランプはそのエコシステムとは何の関係もない」。トランプが退役兵のためのチャリティーイベントやチャリティーゴルフ大会を開催すれば、それは「どうせトランプブランドのプロモーションなんだろう」と否定された。トランプの強引さ、ひどい支払代金の値引き、ボッタクリ、破産、そして訴訟癖のために多くの不動産、銀行、法律関係者が背を向けた。「多くの不動産関係者は彼には近づかない。もし犬と横になれば、ノミと共に起き上がることになる」と金融業界の管理職は語る。 

トランプが自分はブルームバーグと同じくらい金持ちなのだと胸を張る一方、クリントンは実際よりも金持ちではないように振る舞おうとする。トランプは肘を使い、人を押し分けるようにして上流階級に入ろうとしたが、クリントン夫妻はホワイトハウスで8年過ごしたことで自然に上流階級の仲間入りをしていた。しかし、あるメディア業界の大物にとって、彼ら3人は単なるよそ者に過ぎない。「クリントン夫妻をニューヨーカーだと思っている人間なんていないし、トランプなど橋やトンネルなどを作っている土建業者のようなものだ。トランプは単なるニューヨークの気取り屋に過ぎない」。

トランプは、ビル・クリントンと親しく付き合うためにゴルフが役に立つことを理解していた。嫉妬する敵を招く偉大な人物という点で、トランプはビル・クリントンと自分は精神的に似ている部分があると考えていた。とあるニューヨークの不動産業界について書いている作者は「ビルは辞書をもっているトランプのようなものだ」と言う。トランプはへつらうようにしてロナルド・レーガンとナンシー・レーガンをトランプ帝国におびき寄せようとした。今、トランプは同じ事をクリントン夫妻に対して試したのである。偶然トランプはウェストチェスターに、1990年代の終わりに入手した質流れ品のゴルフ場を所有していた。彼は1999年に一旦ゴルフ場を休止してすべてを改装した後、2002年にトランプ・ナショナル・ゴルフクラブとして再開した。このゴルフ場はクリントンの家から10kmほどの所にあった。さらにビルに取り入るため、トランプは壁にビルの写真を掛けた。ビルは5月の時点で、トランプのゴルフ場にロッカーを持っていた(訳注・ゴルフのベストシーズンが5月ごろからなのだろう)

トランプはかつて私に、ビル・クリントンがゴルフが出来る場所が必要だという事もあってゴルフ場を改装したのだ、と語ったことがある。ESPNのドン・ヴァン・ナッタが出版した「First Off the Tee」にあるように、トランプは元大統領とのゴルフを楽しんだ。トランプはヴァン・ナッタに語った。「ビル・クリントンにはゴルフの才能があるが、彼は本当に例のムリガンが好きなんだ。もし彼が打ち損ねると、彼はもう一度やり直したがる。人生と同じだね」。 

どちらの側も、友情は取引に過ぎなかった。映画「ゴッドファーザー」の登場人物が言うように、それは個人的なものではない。ただのビジネスなのである。トランプのニューヨークでの生活は、トランプブランドを有名にして家業のためにカネを儲ける事がすべてだった。クリントン夫妻にしても、それは同じ事である。あるクリントン政権の元高官はこの事をもっと露骨に表現した。「クリントンはカネがある所に移動していただけなのだ」。

「彼らは全員、同じ街で同じ事を考えながら、同じゲームをしているのだ」と元ニューヨーク市コミッショナーのバーナード・ケリクは言う。トランプの3度目の結婚式に参加する一方で税金詐欺などの重罪で収監された経験を持つ人物である。「コネがあればビジネスがしやすくなる。カネを儲け、相手を出し抜き、リスクをヘッジし、必要ならばあらゆる手を使う事がすべてなのだ」。

トランプはディナー・パーティーの常連ではなかった。彼は狭い反復する世界に生きていた。トランプのお気に入りの夜の過ごし方は、フレスコ・バイ・スコットのよく焼けたステーキかチーズバーガーを注文して一気に食べた後、スポーツの試合をテレビで見る事である。「トランプの世界は彼の必要と要求のためにつくられた世界で、その世界は彼がその時点で何を必要とし、何を要求するかで変わるのです。クリントンの世界はトランプのものより広く、国際的なのですが」とかつてのトランプ・オーガニゼーションの副所長だったルイーズ・サンシャインは語る。

一方クリントン夫妻にしても、確かにイベントや祝宴や友人の誕生パーティーにトランプよりも多く出席をしていたが、それはそのような催し物を中心として回っている世界の住人になるには十分ではなかった。去年の夏にトランプにクリントン夫妻との関係を尋ねた際、トランプは中立的だった。「ビジネスをやっている人間はすべての政治家と親しくしなければいけない。そのような付き合いを親密な付き合いというつもりはないね」

 ヒラリーはトランプの結婚式に飛び入りで参加した。「日程的に丁度よかったのだ」とある友人は言う。しかし、彼女の仲間の内の何人かは、彼女がそのような悪趣味な事をしたことに驚いた。彼らは、ヒラリーはトランプの献金者としての価値を過大評価したために予定まで変更したのだと信じている。

上院議員と元大統領は輝くばかりの笑顔でセレブだらけの人混みの中をかき分けた。そこにはハイジ・クルム、バーバラ・ウォルターズ、アーノルド・シュワルツネッガー、シーン・コムス、ウシャー、スティーブ・ウィン、デレク・ジェター、ドン・キング、シモン・コーウェル、ゲイル・キング、マット・ローターがいた。隠し撮りをしようとして大騒ぎになったケイティー・クーリックもいた。ポール・アンカビリー・ジョエルエルトン・ジョントニー・ベネットが演奏をした。

ヴォーグのアンドレ・レオン・タリーもアンナ・ウィンターとともに出席した。メラニアはヴォーグの表紙になる事になっていたのである。結婚式に先立って、彼はメラニアとパリに旅立った。そこで彼らはジョン・ガリアーノがデザインしたディオールのドレス(230,000ドル相当)と、後で着替えるためのベラ・ワンのカクテルドレスを購入した。メラニアが歩き回ったり踊ったりしている間、タリーはドレスにもしもの事がないか気が気ではなかった。「メラニアはこれまで見た中で最もシルキーで、潤いがあり、身だしなみの整えられた女性だが、バサバサの肌にはうんざりした」とタリーは言う。

トランプは「見習い」の3度目のシーズンの撮影を始めたところだった。トランプタワーにあるトランプの家はルイ14世の宮殿を無茶苦茶にしたようなものだとティモシー・オブライエン(「トランプ・ネイション」の著者)は言ったが、彼の3度目の披露宴もまったくのベルサイユ風だった。「この男はトロフィー・ワイフのためにダンスホールを作るような男なのだ」とタリーは言った。「それはバロック風だが、それが彼の流儀だった。大理石がイタリアから運び込まれ、天井は全部金ぴかで、フランスからやってきた職人が絵を描いた。彼は完全な交響楽団を雇っていた」

デヴィッド・パトリック・コロンビアは、トランプにとってクリントン夫妻はもう一つの飾り物にすぎないと確信している。「トランプはクリントン夫妻が出席をしている事に満足をしていた。それは彼がどれほど成功したかを示しているからである。それは彼にとって重要な事なのだ」

トランプとクリントン夫妻が世界で最も重要な舞台で激突するのは避けられないことだったのだろう。しかし、それは計画されたものだったのだろうか?去年の夏、私はトランプ・タワーのレストランでトランプに、2015年の5月にかかってきたビルからの電話で大統領選に出馬する事を決意したという噂について聞いた事がある。ワシントン・ポストは4人のトランプの側近と1人のクリントン側の人物からの情報として、ビル・クリントンがトランプに共和党でより大きな役割を果たすように勧めたのだと報じていた。

クリントン夫妻の女性に対する攻撃」の著者で、長年のトランプ友人であるロジャー・ストーンが主張するには、ビルはトランプに、もし大統領選に参加したら共和党の党代表になれるだろうと説得したという。「それが陰謀論者がすべては仕込まれていると信じ込んでいる理由なのだ。ビルは教えたがりなんだよ。彼はゲームをすることをやめられない。かれはついつい、余計な事に口出しをしてしまうのだ」。トランプはかつてビルに、独立候補が大統領に当選する事があるかと尋ね、そのような事はないだろうと言われたことがある。

私はあの日、トランプタワーでこの気の滅入る話の核心に迫ろうとしたのだが、ビルとトランプについての真実を追求するというのはつかみどころのない作業である。

「ビルから、大統領戦に出馬すべきだと言われたのではないですか?」

トランプは肉団子を食べながら、「彼はそのような事は言わないよ」と答えた。

奇妙な事に、私がこの話を調べ始めた時にはこの噂は全く逆のものになっていた。トランプ支持者が言うには、ビルはトランプに、選挙戦に出馬するのをやめるよう説得しようとしたというのである。

クリントンの支持者はこの噂をバカにした。あるビルの盟友は言う。「ビル・クリントンはフランク・アンダーウッドではない。もう勝つことが決まっているときに、彼が何か素晴らしい策略をもってトランプに電話をかける事はない。多くを得るためには多くを与えなければらないというのがビルの信条だが、彼はこのような首の突っ込み方はしない。トランプは、大統領選についてビルがあれこれ言ってきた、などと自慢するべきではない。トランプはただの電話を掛ける大勢の相手の一人にすぎない」。

どのような理由でトランプが大統領選に参加したにせよ、そのやり方はビルを激怒させるものだった。トランプは例のビリー・ブッシュの騒動の後さらに攻撃をエスカレートさせ、ビルの非難者を表舞台に引きずり出した。ヒラリーについて「家に座って食事をしに来た被害者を待ち構える、史上最悪の女性虐待者」とまで言った人はこれまでいなかった。「みんな15年忘れてきた事が戻ってきてしまった」とクリントンの支持者は悔しがった。アンソニー・ウィーナーが15歳の少女に送った猥褻メッセージと、ウィーナーのかつての配偶者でヒラリーの腹心であるフーマ・アベディンのために再開されたFBI捜査の新展開についても、トランプはクリントン夫妻を攻撃している。

ニューヨークの支配者層はトランプの非常識な行動に仰天した後、もしトランプの一族とイヴァンカ・トランプの夫でニューヨーク・オブサーバーのオーナー、そしてトランプの選挙戦略の責任者の一人であるジャレド・クシュナーがこそこそと街に逃げ帰る事があったらどのように彼らを扱えばいいのかを話し合い始めた。ある人はトランプの子供に対する扱いはある程度寛容なものになるだろうと言う。ある人は、トランプの信用は不可逆的に毀損され、トランプ一族全体が不可触民のようになるだろうと考えている。

「平均的なニューヨーカーの間で、「トランプ」という言葉が中傷的な意味で使われることになるのだろうか?」と、民主党系の政治コンサルタントであるハンク・スタインコップは言う。「しばらくはそのような時期があるだろうね」

これはトランプが自分のブランドに硫酸をぶちまけた事の結果が明らかになりつつあるという事なのかもしれない。トランプはワシントンで開業する予定の、彼の新しいホテルのプロモーションのために選挙遊説を一時中断した。ホテルは明らかに苦戦をしており、高額な部屋は料金の引き下げを強いられている。有名シェフのジョセ・アンドレはトランプを「人種差別主義者、社会の分断者」だとしてホテルを見捨てつつある。私は実際にそのホテルに行ってみたが、なんともわびしい印象をうけた。黒人の家族がトランプの標識の下で親指を下げ、写真を撮っていた。「黒人の命を考えろ(Black Life Matters)」という落書きがされた現場には犯罪捜査用の黄色いテープが張られていた。

「みんなトランプに関する事を避けようとしている。人々はトランプがやっている事に吐き気がしているのだ」と、ある広告業界の大物は言う。

ニューヨーク・ポストのコラムニストであるシンディー・アダムスはそうは思っていない。「彼はいずれ、元のように世界で最も有名な人物になるに違いない。彼のブランドはそのままであるだろう。みんながトランプに会いたがるのは変わらないと思う」

トランプはチェルシーとイヴァンカが友人のままでいてくれる事を望むと言ってきた。しかしクリントン側では、この友人関係はイヴァンカの方が熱心だったとして、二人の友情は重要なものではないのだという人が多い。あるクリントン財団の管理職は言う。「イヴァンカとチェルシーに友情はない。イヴァンカが売名をする機会があるだけに過ぎない。これは取引なのだ。そして二人はどちらも、必要なものを手に入れるのだ」

敬虔なユダヤ教徒であるクシュナーが一番困難な立場に立たされる事になる、と考える人もいる。トランプの周りには反ユダヤ主義的な雰囲気が渦巻いているからだ。かつてクシュナーの元で働いたジョー・コナソンは言う。「人々は忘れない。フロリダでは何とかなるだろうが、ニューヨークでこの事が飛び去るという事はない」

トランプが不動産業界を中心に活動していた頃からの友人は、トランプが攻撃してきた集団がどのようにトランプの収入に影響するかを心配している。「トランプは女性、富裕層、中東出身の人間、ラテンアメリカ出身の人間を遠ざけた。そしてこれらの人たちがトランプからマンションを買っているのだ」

先月ウォルドルフ・アストリアで恒例のアル・スミス・ディナーが開催された。ニューヨークのカトリック教区が主催する、上流階級とメディアとユーモラスなスピーチが一つになったチャリティーイベントである。「大きな心と大きな口を持つクイーンズ地区の悪ガキは、間違いなくニューヨークの産物である」とアル・スミス4世はトランプを紹介した。その時の会場の雰囲気はトランプに対して十分に暖かいものだった。

しかし終盤になるにつれ、トランプがイベントの慣習を無視してとげとげしくヒラリーを批判し始めた時、彼は繰り返しブーイングを受けた。そして、そのブーイングはトランプが長年認められたいと願ってきたマンハッタンのエリートからのものだった。イベントが終わった後、トランプは誰と話す事もなく、メラニアと逃げるようにして会場を後にした。トランプが5番街の自宅に引きこもる様子は、まさにトランプが好む映画「市民ケーン」の一シーンである。「市民ケーン」はニューヨークの大富豪が高くまで飛び立ち、政治に手を出し、女性問題をきっかけに一気に破滅していくという物語である。「市民ケーンは本当に、過去の蓄積とはなにか、という映画なのだ」、とトランプはかつて言った事がある。「蓄積が積み重なるだけ積み重なった時に、我々は何が起こるかを知ることになる。必ずしもいい事が起こるとは限らない」。ヒラリーはといえば、トランプが会場を立ち去って20分経った後でもまだ人混みの中で笑っていた。

感想

ニューヨーカーがどのようにヒラリーとトランプを見ているのかよく分かりますね。